《 海外レポート 》
海外人事に聞く北欧のジョブ型雇用とリスキリングの現状(前編)

 2023年4月18日

topイメージ

デジタルトランスフォーメーションへの関心は、コロナ禍を機に加速しています。 また、デジタル、AI技術の導入が進む職種では、「経験年数とともに生産性が上昇する」という現在の常識が一変し、それに伴い労働力市場も大きな変革を迫られるのではないかと言われています。人材の流動化が加速していく可能性もあります。従来の日本型雇用システムに変化が訪れる日がそう遠くはないと予想され始める中、私たちが認識しておくべきことは何でしょうか?

そこで、リスキリングが盛んかつ、人材流動性が高いながらも高生産性と高福祉を実現する北欧で、採用・マネジメント分野にて20年余りキャリアを積まれてきたビジネスマンにインタビューを行い、その実情の把握を試みました。

1. 年功序列や新卒一括採用を前提としない労働市場とは?

面接

日本型雇用の大きな特徴である年功序列制度や新卒一括採用を前提としない海外では、一体どのような労働市場が形成されているのでしょうか。

一般的に、欧米型の雇用システムはジョブ型雇用と呼ばれます。ジョブ型雇用とは、企業の中で必要な職務内容に対して、その職務に適したスキルや経験を持った人を採用し、事業部解体などでそのポジションがなくなれば解雇、といった制度全般を指します。採用のタイミングでは明確な職務を提示することなく、採用後の研修と実務経験の中でスキルを身に着けていくという日本のメンバーシップ型制度とは対照的です。

ジョブ型 メンバーシップ型
欧米 主な採用国 日本
職務を基準に人を割り当てる 概要 人を基準に職務を割り当てる
スキル 給与の基準 年齢・勤続年数
スペシャリスト(専門職型) スキルの
専門性
ジェネラリスト(総合職型)
高い 人材の
流動性
低い
経験者採用 採用方法 新卒一括採用

2.いま注目を集めているリスキリングとは?なぜいま必要とされているのか

さらに近年は、ジョブ型雇用だけではなくリスキリングにも注目が集まっています。リスキリングとは、英語のReskillingを指し、スキルを付け直すこと、学び直すことと表現されます。 2021年に経済産業省から発表された資料によると、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。

リスキリングに注目が集まる背景には、デジタルトランスフォーメーションへの需要の高まりが挙げられるでしょう。様々な職種でAIやロボットの導入が急ピッチで検討されている昨今、既存のスキルのみを以て業務をこなすことは徐々に難しくなっていくのかもしれません。

3.リスキリングや人材流動化に焦点があたる日本

そのような中、岸田文雄首相は2022年10月3日、衆院本会議で個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明しました。加えて、後日行われた日本経済新聞社主催のシンポジウムでは、リスキリングと同時に正規雇用と非正規雇用間の待遇格差是正や、労働者の転職、副業を受け入れる企業に対する支援についても同時に触れています。岸田首相が新しい資本主義実現計画における「人への投資」に向けて提唱した柱は、以下三点です。

  1. 転職や副業を受け入れる企業や訓練後に非正規雇用を正規に転換する企業への支援を
    新設・拡充
  2. 在職者のリスキリングから転職まで一括で支える制度を創設
  3. 従業員を訓練する企業への支援金の補助率を上げる

ここから、従来の日本型雇用システムを変化させ、人材のリスキリング、そして流動化を政策サイドからも支援していることがうかがえるのではないでしょうか。

また、リスキリングはデジタル分野だけとは限りません。経済協力開発機構(OECD)による2021年の『日本における社会に対応する成人学習の機会をつくる(Creating Responsive Adult Learning Opportunities in Japan)報告書』の報告によると、女性や高齢者の雇用と非正規労働の増加を受け、日本の労働人口構成は激変しており、労働市場にはスキルの偏りが生じているとしています。また、成人の学習機会へのアクセスを増やし、学習機会提供の対象者や市場ニーズと提供内容のマッチング、キャリアガイダンスを行うことが日本の課題であるとも指摘しています。

参考:『日本における社会に対応する成人学習の機会をつくる(Creating Responsive Adult Learning Opportunities in Japan)報告書』OECD
https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/4UPDATED%20Future-ready-adult-learning-2019-Japan_J.pdf

参考:『Creating Responsive Adult Learning Opportunities in Japan』OECD
https://www.oecd.org/publications/creating-responsive-adult-learning-opportunities-in-japan-cfe1ccd2-en.htm

さらに、再教育機会への参加率が高い国とその労働生産性には、相関関係が見られるという指摘もあります。特に米国と北欧諸国でその傾向は顕著なようです。

参考:『労働生産性の国際比較 2022』公益財団法人 日本生産性本部
https://www.jpc-net.jp/research/detail/006174.html

3. 人事のスペシャリストにインタビュー:北欧企業の雇用と現状

インタビュー

では、実際に欧米のビジネスマンはいかにしてこういった雇用システムを活用しているのでしょうか?

今回はスウェーデン、ノルウェーの両国で20年にわたり、採用・マネジメント分野でキャリアを積まれたセシリアさん(仮名)に、北欧企業の人事制度やそれを取り巻く環境の現状について、実際にお話を伺ってみました。

ーー セシリアさん、本日はよろしくお願いいたします。
まずは、このインタビューを企画した理由について説明します。 それは今、日本の労働力市場が大きく変わろうとしているからです。
日本では長い間、新卒者の一括採用、年功序列型賃金と終身雇用を前提とした固定的雇用システムを用いてきました。しかし現在、少子高齢化が進む日本では、多くの企業が人材不足に陥っていると言われています。そこにAIテクノロジーなど急激な産業構造の変化もあいまって、多様なスキル、バックグラウンドを持つ人材を柔軟に獲得したいという新たな需要も生まれているようです。
北欧は日本と比べ人材の移動、そしてリスキリングが盛んだと聞いています。そこで、それらがどのように運用されているのか知りたいと思ったのです。

セシリアさん(以下、セシリア)全体として言うと、北欧のビジネスマンは一般的には時間を厳守し、専門的で、一緒に働きやすく、平等で、社交的で、快活な人々です。そして彼らは国家 / 社会に高い信頼を寄せています。

教育が無料なことも大きいですね。
高い税金はかかりますが、教育を受けるために親の財政に依存したり、親の意向に沿って教育を選択したりする必要はありません。社会保険制度はすべての国民に、両親双方の育児休暇、病気休暇、退職年金などのために各地方自治体から支援を受け取る権利を与えています。

また、北欧では自治体を含む公企業と民間企業で労働市場を共有しているのも大きな特徴です。 公企業は、自治体運営と公益法人などその他活動の双方がありますが、民間企業よりも公的部門に長年滞在することが一般的です。 民間企業の傾向として、20代は2年間、30代は3年間程度etc.と所属する年数が増えていくのが通常ですが、もちろん自分次第で早めることも遅くすることもできます。

その他、強力な組合と、労働市場に対するさまざまな規制があります。
最も重要なものは、労働環境法、労働時間法、差別法、育児休暇法、雇用保護法、職場における労働組合役員の地位に関する法律、休暇法、研究休暇法です。

しかし最近のトレンドによれば、若い労働者は仕事が人生を幸せにするものだとは信じておらず、正社員にはあまり興味がないという傾向があります。 またAI の開発も、もちろん最近の北欧の労働力市場に影響を与えていますよ。

新卒、中途も関係なく、即戦力採用が基本

ーー では、まず初めに、北欧と日本のシステムとの違いについて全体像を掴んでいきたいと思います。
日本では長い間、新卒者の積極的採用が行われてきました。新卒者を一斉に雇うことで、企業への忠誠心の高い集団が形成されることが大きな利点として考えられていたからです。
ヨーロッパで全く就業経験のない新卒を採用する文化はありますか?それとも、インターンシップなどのトレーニング期間を経て就職するほうが一般的でしょうか?

セシリア新卒の一括採用はメインではないですね。
大学での専攻によっても異なっていて、大企業の場合は学生向けに就職説明会※1を開催し、(即戦力となる)優秀な学生を募集することが一般的です。特にエンジニアやエコノミストなどの(専門的な)ポジションでは、そのような採用をすることが多いですね。
また大企業であれば、インターンシップ※2を開催して正社員採用をするのも一般的です。しかし最も多いのは、卒業後に自主的に仕事を探すことです。

※1 北欧のほとんどの一般的な中小企業では、説明会を開催しない。
※2 日本のような企業研修をかねるものというよりは、雑用アルバイトのようなもの。主に社内で誰もやりたがらないような仕事を任されることが多いそうです。

ーー 日本は新卒一括採用を前提としているので、社内で研修制度を設けることが一般的です。
今のお話を聞く限り、入社次第すぐに業務に入るというイメージを持ちましたが、インターンシップ以外で人材の育成はどのように行うのが一般的ですか?それともほとんど行わないのが一般的でしょうか。

セシリア正社員として採用された場合は試用期間がありますよね。大企業もしくは公企業では多くの場合、最初の 6 ヵ月間のオンボーディング プロセスがあります。
その期間中に何度か新入社員と育成担当者間でフォローアップ ミーティングを行い、業務状況や職場環境などを確認します。最初の 半年~1年間は、育成担当者以外に特別な連絡担当者を置くこともよくあります。ほとんどの企業では初期研修プログラムがありますし、会社や新しいスキルなどについて学ぶことができます。ほとんどの企業は、経営戦略に基づいたスタッフの一般的、専門的能力開発の計画を立てていますよ。

※ 新たに配属された従業員が早期に職場になじめるよう、また自身の実力を発揮できるように企業が支援すること。即戦力化のためのOJTとは少し違う。

ーー 新卒一括採用をしていないといっても、研修制度や担当者間で問題があった場合の対応は存在するということですね。
そうした形で入社したとして、どのような条件下で賃金が上がる、もしくは下がるのが一般的でしょうか?

セシリア北欧では、賃金を上げるのは年齢それ自体というよりその業務の経験年数ですね。 組み合わせの場合もあるかもしれません。著しい成果が認められれば賃金が上がることもあります。
しかしほとんどの企業では、年に 1 回、労働組合と使用者団体の間で賃金交渉が行われています。北欧の労働組合の活動は一般的に強力で、昇給の割合が全員に対して同じである場合もありますが、さらに追加の昇給を望んでいる場合については個別対応となります。

公企業の場合だと、そのポジションの経験年数に基づいて給与が調整されている役職が多いのですが、労働組合によって民間企業同様の仕組みにしていこうという流れが現在起きています。

ーー 民間企業と公企業で異なる場合もあるのですね。アメリカのように、新卒者が高い給与で採用される場合はありますか?

セシリアそうですね。北欧では若い従業員でも年配の従業員よりも高い報酬を得ることができますが、それは彼らが人材を見つけるのが困難な、複雑で新しい教育やスキルを持っているかどうかによって決まりますね。

ーー なるほど、 では逆に賃金が下がる場合はどのようなケースでしょうか?

セシリア現在は公、民間企業問わず、賃金全体は今のところ常に上昇傾向にあります。
締結された賃金契約はそれがあなた自身の雇用契約または雇用を規制する労働協約に関係するかどうかに関係なく拘束力がありますので、使用者側が一方的に雇用条件を変更することはできません。雇用条件の変更は合意の上で行われなければならないものです。
しかし、民間企業が倒産寸前である場合は、賃金が下落する可能性があります。雇用主は賃金の引き下げについて従業員と交渉することができますよ。

解雇には正当な理由が必要
理由なしで解雇できるのは実はアメリカのみ
クビイメージ

ーー 終身雇用制を前提としていないヨーロッパ企業にとって、解雇のメインの理由はなんでしょうか?
日本人の多くは、欧米型企業というと日本型企業と比べ解雇されやすいイメージを持っていて、恐れる人も多いようですが。

セシリア仕事量自体が不足している場合がメインですね。多くは 会社がその部門のサービスを終了し、その従業員のスキルが他のポジションで役に立たない場合です。ただし雇用主は解雇の決定を下す前に、必ず組合と交渉しなければなりません。法律によって正当な理由がなければ従業員を解雇することはできないのです。

ーー あくまでポジションベースで決定されるということでしょうか?

セシリアいいえ、そうとも限りません。
かつてはたしかにポジションが固定されていて、採用に関してもそのポジションが空けば採用するという形を取る場合が多かったのですが、昨今の、より複雑に変化していくビジネス環境に伴い、ポジションの考え方はより柔軟になっていますよ。

ーー では、労働者が低パフォーマンスを理由に解雇されることはありますか?

セシリアほとんどないですが、可能性はありますね。
たとえば、特定のタスクを拒否することで雇用契約に違反したり、頻繁に遅刻したりして不正行為を行った場合、解雇される可能性があります。 また通常、北欧では病気による解雇は正当な理由にはあたりません。
解雇は一般的に、職場で犯罪行為を行ったり、雇用主に対して著しく不誠実であったり、著しく不正な行為を行った場合にのみ行うことができます。 その場合、雇用は通知期間なしで直ちに終了します。

ーー なるほど。そう聞くと解雇や降格等のリスクは、必要以上に恐れるほどのことではない印象を受けます。
また、社内環境のことについても質問させてください。
先ほどのお話にもありましたが、全体的に勤続期間が日本と比べると短い印象です。組織内で離職率を下げる一般的な取り組みなどはありますか?

セシリア北欧の企業は従業員に自身のスキルを開発する機会を与え、彼らが能力を活かしきる環境を提供するために対話を重ねます。 従業員を信頼し、裁量と柔軟な労働条件を与えることも重要です。また従業員のワークライフバランスについても、管理職側からサポートしていることを常に伝えるようにします。 もちろん職場での人間関係や同僚同士のサポートも重要ですね。

ーー 労働者の独立性が重んじられているのですね。
また、労働者のプライベートもサポートする姿勢を見せることで離職率を下げられるというのは面白い視点だと感じます。

後編につづく 》

後編では北欧ならではの採用市場の特徴と、リスキリングについても深堀していきます。

サムネイル
海外人事に聞く
北欧のジョブ型雇用とリスキリングの現状
(後編)
詳しく見る 

 

《 筆者紹介 》海外特派員Y.M

照明士の資格を持つヨーロッパ圏在住の海外特派員。
現地語にあたふたしながらもヨーロッパのイベント情報や市場調査に勤しんでいる。

 

関連情報

 

お役立ち情報一覧 

 

PAGE TOP