《 TSN入門編 》
オートメーションネットワークとTSN

 2024年10月29日

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近年の車載ネットワークやファクトリーオートメーションのような高度に自動化されたシステムでは、リアルタイムの通信は不可欠です。例えば、進路上に歩行者がいるにも関わらず自動運転の車がブレーキをかけるのをためらったり、組立ラインのロボットが遅れて指示を受けたりするのを想像してみてください。自動化システムの信頼低下、生産ラインが停止することで発生する損害、企業だけでなく、ひいては業界全体を脅かす脅威となりかねません。
このような状況を防ぐため、さまざまなリアルタイム通信技術が活用されています。中でも工場の生産ラインで1マイクロ秒(㎲)以下の精度で各工程の時刻同期を可能にするTSN(Time-Sensitive Networking)規格は今後、工場のスマート化に貢献できると期待されています。このTSNがオートメーションネットワークに与える役割について、2018年に発刊されたBELDEN社の著作から一部のみを抜粋し、許諾を得た上でブログ向けに再構成しました。

※ 2018年発刊の著作から抜粋しているため、記載内容は2018年時点での内容となり、現在の状況と異なる場合があります。また全ての著作権は、BELDEN社に帰属します。

1. TSN(Time-Sensitive Networking)とは?

従来の標準Ethernet(イーサネット)技術では不可能であった1マイクロ秒(㎲)以下の精度で時刻同期を保証し、リアルタイム性を担保できるようにしたネットワーク規格です。

工場などでは、EtherCAT、PROFINET IRT、Sercos III など、いくつかのリアルタイム通信技術が使用されていますが、互換性の問題があり、帯域幅の増加など将来の拡張に対応できるものが限られています。これらの問題に対応できるのがTSNであり、TSNが持つ次の3つにより、これまでの制約を解消します。

  • 信頼性の高いリアルタイムコミュニケーション
  • オートメーションネットワークに流れる膨大な量のセンサーデータやバックグラウンドデータに対応するための広帯域
  • イーサネットデバイスとの上位互換性

2. オートメーションアーキテクチャの変遷 - Industrie 3.0から4.0への移行

TSNが必要とされるようになった背景には市場の移行があります。
ドイツのオートメーション市場において「Industrie 3.0 ( 第三次産業革命)」と呼ばれるものから「Industrie 4.0(第四次産業革命)」に移行しており、簡単に言うと「製造業におけるデジタル化」が劇的に進化しています。
この移行は、一般的にAutomation pyramid(ピラミッド型のアーキテクチャ)からAutomation pillar(ネットワーク型の分散アーキテクチャ)への移行として描かれています。

Industrie 3.0から4.0への移行

Automation pyramidからAutomation pillarへの移行

ピラミッド型モデルは、工場の現場レベル(フィールドレベル)から最上部の管理システムまで、機能層が厳密に分かれているのが特徴です。
リアルタイムデータ通信は通常、センサーやアクチュエーターがある現場レベルとコントローラレベルの間で実行されます。
一方、Automation pillar では、コントローラレベルは消滅。制御機能の一部は、分散型制御ユニットとして現場レベルに移行され、安全機能などの極めて高速で信頼性の高いリアクションに使用されます。その他の制御ユニットは、上図の集中制御ユニット(「Virtual PLC」と記載)として管理レベル(現在は工場基幹と呼ばれる)に移行します。

3. Industrie 4.0 におけるTSNの必要性

Automation pillar におけるコネクティビティ層は、工場のバックボーンとフィールド層を結ぶ情報スーパーハイウェイと考えることができます。トラフィックは、緊急性の高いデータと低いデータで構成されており、緊急性が高いデータは、時間通りに目的地に到達する必要があります。
緊急性を持つトラフィックとそうではないトラフィックをネットワーク上で構成する場合、それぞれでネットワーク接続を共有し、緊急性の高いトラフィックの流れを阻害しないようにする必要があり、それを実現できるのがTSNなのです。

※ 情報スーパーハイウェイ:アメリカ全土の情報通信をすべて高速通信回線で結ぶという構想

4. オートメーションネットワークにおけるTSNの活用

オートメーションネットワークにおいてTSNを活用することにより、多数の小規模な分断されたネットワークを1つの統一されたネットワーク構造にすることを可能にします。この新しいネットワークは、より大規模なリアルタイム通信の要件に対応し、バックグラウンドデータにはより広い伝送帯域幅を提供することができます。複数のデータ通信を1つのネットワークで使用するネットワークコンバージェンスのメリットは、さまざまなマーケットで発揮されています。ここではいくつかの事例を紹介します。

工場での活用 - ファクトリーオートメーション

工場イメージ

ファクトリーオートメーションでは、ネットワークコンバージェンスにより、分散型リアルタイム制御が可能になり、大型機械や多数のロボットが、従来よりも正確かつ柔軟に相互作用することができます。また、予知保全など、膨大な量のセンサーデータの解析を必要とするアプリケーションの実現も可能です。また、クラウドからセンサーまでの統合ネットワークにより、インターネットから生産設備に安全にリモートアクセスし、遠隔からメンテナンスなどの作業を行うことができます。

発電施設での活用 - エネルギーオートメーション

変電所イメージ

エネルギーオートメーション、例えば変電所では、ネットワークを介して電圧と電流のサンプリング値などのタイムクリティカルデータを電気保護装置に送るためにTSNを活用することができます。また、TSNはGOOSE(Generic Object Oriented Substation Events)プロトコルをセンサーデータやネットワーク監視と同じネットワークインフラ上で使用する場合であっても、重要なイベント通知であるGOOSE のパフォーマンスを向上させることができます。

交通機関用アプリケーション

電車イメージ

交通機関、例えば鉄道網における乗客向けの電車内サイネージといった便利なエンターテインメントアプリケーションは、旅客情報などのアプリケーションや安全とは無関係な制御機能とネットワークを共有することができます。一方、安全機能は、専用の制御ネットワーク上で他の制御機能と組み合わせることができます。

車載ネットワークにおけるTSN 活用

自動走行イメージ

現代の自動車は、自律走行などの新機能を実現するために、車載される電子制御ユニットの数が非常に多くなっています。このような高機能化に伴い、物理的な接続性、通信帯域幅に対する要求も高まっています。 FlexRay、CAN(Controller Area Network)、MOST(Media Oriented Systems Transport)などの車載通信バスは、すべて専用の物理ケーブルに依存しており、複雑さと重量を増しています。このケーブルの重量増は、車の燃費と性能を低下させてしまうという問題がありました。
これらを解決するには多くの異なる車載通信バスを規格化されたイーサネットに統合させ、置き換えることでした。しかし主にイーサネットケーブルが車載用向けの電磁波耐性要件を満たしていなかったため、これらのバスシステムの多くをまだ置き換えていませんでしたが、この状況は変化しつつあります。 IEEE 802.3 ワーキンググループは、これらの要件を満たすことができるいくつかの物理層チップ(PHY)を規定したのです。PHYの導入により、車載市場はイーサネットとTSN に門戸を開くことになりました。

TSNは、異なる優先順位のトラフィックを1本のケーブルに統合できるため、車載用バックボーン通信技術として理想的なものです。TSNは、さまざまな車載通信バスを統合し、統一された接続レイヤーを形成するための置き換えを可能にしました。

CC-Link IE TSN規格準拠製品
関連製品

CC-Link IE TSN規格準拠製品RSPE / BOBCAT / OCTOPUS(マネージド)

5. まとめ

TSN技術は工場や電車など身近なものにも活用されており、1マイクロ秒(㎲)以下の精度で時刻同期を可能にし、リアルタイムコミュニケーションを担保する技術です。今後はさらに進化を遂げ、マーケットを広げていくと考えられています。また、日本の重要な産業を支える重要な役割を担う規格となりますので、ぜひ注目していただけたらと思います。

本ブログは、2018年に発刊されたBELDEN社の著作の第1章部分を抜粋し、ブログ向けとして簡単にまとめたものとなります。本編(全4章)をすべて読みたい、TSNをもっと詳しく勉強したいという方、ネットワークのご担当者様はぜひ下記よりダウンロードいただけたら幸いです。

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Time-Sensitive Networking 入門編
BELDEN / Hirschmann
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