いまさら聞けない!
エッジコンピューティングとは?
IoTとエッジコンピューティングの今後

 2025年6月26日

topイメージ

近年、工場などリアルタイムの処理が重要な現場を中心に、エッジコンピューティングが普及しはじめています。リアルタイム処理以外にも回復性能に優れ、またサイバー犯罪対策への応用も期待されるエッジコンピューティングは、今後は生産現場だけでなく、さまざまな分野に普及することが予想されています。

Sanko IBでは、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティング、それぞれのIoTソリューションへの活かし方に着目し、3つのテーマに分けてご紹介したいと思います。
第一弾は、エッジコンピューティングの特徴と、実例をもとにした現時点でのエッジコンピューティングの課題についてご紹介します。

1. エッジコンピューティングとは?

エッジコンピューティングとは、コンピュータネットワークの周縁(エッジ)部分でデータ処理を行うネットワーク技術全般を指します。エッジとは、ネットワーク末端のIoTデバイスやその周辺領域に配置したサーバを指し、例えば、データ加工や分析など情報全体の一部の処理をエッジのデバイスが担い、その後加工されたデータのみがクラウド等にアップロードされるなどの仕組みはエッジコンピューティングの具体的な活用例と言えます。ネットワークを経由して処理を行うクラウドコンピューティングとよく対比される概念です。

2. エッジコンピューティングのメリット

エッジコンピューティングの最も顕著なメリットは低レイテンシを実現できることです。

レイテンシとは、データ転送をリクエストしてから実際に届くまでに生じるデータ通信時間のことを指します。「遅延」と説明されることが多いですが、「遅れ」というよりも「かかった時間」を意味します。

ネットワークを通じて遠距離のデータ送受信を行うクラウドコンピューティングでは平均して約0.1秒~数秒の時間が生じていた一方で、エッジコンピューティングでは、エッジ領域で処理を行っているため物理的な距離が短く、低レイテンシを実現します。そのため、医療、自動運転や生産現場の機械制御などリアルタイムでのデータ処理、分析、管理が重要な場面で、効力を発揮します。また、エッジ コンピューティングを使用してデータフローを最適化していくと、ローカル処理 / ストレージのさらなる活用も可能になります。クラウドサーバとの複雑なやり取りも減らすことができ、運用コストの削減に繋がる可能性も高いと言えます。

そういった特徴から、エッジコンピューティングは、中央システムに何らかの問題が起きている場合や、通信が断続的な場合に起きるシステムダウンのリスクを最小限に抑えることもできると言われています。また、別のエッジで起きている障害が別のエッジに障害を与えるといった事故も起こりにくくなり、エッジコンピューティングを積極的に用いることで、システム間の依存関係を最小限にとどめ、有事にも稼働を続けられる環境を構築することが可能になります。つまり、エッジコンピューティングはコスト削減につながるだけでなく、システムの信頼性や回復性能を高め、BCP(事業継続計画)対策にも有効な手段と言えますし、運送、公共交通機関といった災害時にも早い復旧が必要な分野への適応も期待できるのです。

Niagara Framework
《 TSN入門編 》
オートメーションネットワークとTSN
詳しく見る 

3. さまざまな分野で普及が期待されるエッジコンピューティング

近年増えている機械学習(ML / マシンラーニング)とエッジコンピューティングの相性も良いと言われています。例えば、エッジ部分のIoTデバイスが保存または処理する情報からマシンラーニングを行うことで、さらなる効率化が見込めます。それだけではなく、次の入力が何であるかを予測し、それを処理するために適切なリソースを割り当てることができれば、データの処理と返却にかかる時間も短縮されます。例えば、工場の生産現場で、ある機械の絶対的な危険ゾーンがその機械の周囲1メートル半径だとします。センサーを機械から1.5メートルほどの範囲に設置し、このセンサーに反応する人の 80% が本格的な危険ゾーンに入ることがマシンラーニングにより判明した場合、エッジ部分のみで機械の動作を停止する等の処理を瞬時にすることが可能です。

また、エッジコンピューティングでは、データがエッジ 、もしくはプライベートのストレージ内に格納されたり、あるいは機密データや機械学習のアルゴリズムをクラウドに転送せず、プライベートネットワーク内で管理したりすることができるため、セキュリティとプライバシー保護性能の向上が期待できると言われています。もちろん、セキュリティ対策が不十分などの理由で、エッジのデバイスがハッキングに対して脆弱になる可能性はありますが、エッジ部分が保持するデータは、大量のデータを保存するパブリックなクラウドサーバに比べて情報量自体が少ないため、そもそもエッジ部分をハッキングする動機を低減させることが期待されているのです。このように、エッジコンピューティングを積極的に用いることはサイバー犯罪の対策としても有効な手段の一つとなるかもしれません。

サイバー犯罪と言えば、一般的に企業への攻撃といったイメージが根強いですが、近年はもっと私達の身近なところへの攻撃、例えば病院へのサイバー攻撃が観測されています。

《 参考 》
Cyberangriff auf die Johannesstift Diakonie

ヨハネスティフト・ディアコニー病院へのサイバー攻撃
https://www.mz.de/lokal/wittenberg/cyberangriff-johannesstift-diakonie-hacker-krankenhaus-krebspatienten-it-sicherheit-3933086

病院がサイバー攻撃を受けることで、クラウド上に保存されていた患者のカルテ情報等に影響が出たり、混乱による手術の遅延が発生したりするなどのリスクは人命にもかかわります。こういったリスクを踏まえ、エッジコンピューティングは今後、大規模な工場などに限らず、さまざまな用途でシステムを構築する上で基本的な設計構想の一つとなっていくかもしれません。

サイバー攻撃のイメージ
工場のサイバーセキュリティ対策、準備していますか?
サイバー攻撃の傾向と対策
詳しく見る 

4. エッジコンピューティングの課題

エラー画面

エッジコンピューティングは、現場で少しずつ活用が広がっています。しかし、アメリカ カリフォルニア州にあるZEDEDA(ゼデダ)のCEO兼共同創設者であるSaid Ouissal氏は、2024年7月に発生したクラウドストライク事件を機に、現在のエッジコンピューティングのリスクについて指摘しています。

クラウドストライク事件とは、アメリカのCrowdStrike(クラウドストライク)社が作成したセキュリティソフトウェア「Falcon」のアップデートに欠陥があり、2024年7月19日にWindows 8以降を搭載したWindows搭載PCがクラッシュする、全世界的なシステム障害を指します。世界中の企業や政府を巻き込んだこの障害は、情報技術史上最大とも言われ、航空会社、空港、銀行、ホテル、病院、株式市場、政府サービスにいたるまで多大な影響を与えたことは記憶に新しいかと思います。

《 参考 》
世界でシステム障害、空港や銀行など幅広く ソフト起因 | 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC197ST0Z10C24A7000000/

Said Ouissal氏はこの事件から、重要なインフラストラクチャや産業インフラストラクチャを管理する組織にとって、エッジコンピューティングに代表されるIT の分散化が最優先事項である必要があると指摘しています。例えば、基盤となるオペレーションシステムへの過度の依存は、今回のような広範囲の障害が発生した場合には危険を伴います。システムの信頼性や回復性能を向上させ、一つの失敗による影響を制限するには、エッジ部分を基盤となる OS から分離し、エッジ ソリューション同士を分離するべきでしょう。

また、今回の一件では、以前のバージョンに簡単にロールバックできないため、多くのシステムが機能しなくなった点についても問題視しています。今回、クラウドストライクのエラーを修正する唯一の方法は、各エンドポイントを手動でリセットすることであり、その作業には多大な時間が費やされました。つまり、エッジ デバイスには、基盤のOS が更新内容を検証し問題が発生した場合には、自動的に以前のバージョンに戻せる堅牢なロールバックシステムも必要となります。加えて、エッジコンピューティングは、その特性上、デバイスが広範囲に分散、あるいは危険な場所に位置している可能性があり、そのため状況や条件に関係なくすべての操作にリモートでアクセスできる必要があると指摘しています。

このように、エッジコンピューティングの普及が進むほどに、リモートアクセスの確保といったエッジ特有の課題に向き合うことや、自己回復型システムの構築の重要性が高まることが予想されているのです。

《 参考 》
Why CrowdStrike was a wake-up call for businesses’ edge computing strategies

https://www.edgeir.com/why-crowdstrike-was-a-wake-up-call-for-businesses-edge-computing-strategies-20240813

5. まとめ

エッジコンピューティングのメリットと現時点での課題をまとめると、以下のようになります。

  • データ通信時間が短い(低レイテンシ)ため、リアルタイムでのデータ処理に向く
  • 中央システムに異常がある場合でも動作を続けることができ、システムの信頼性・回復性が高まる
  • エッジそれぞれが多くの処理データを持たないことから、サイバー攻撃リスクを減らせる
  • 一方で、リモートアクセスの確保やロールバックシステムの整備といったエッジ特有の問題点への対策が個別に必要

次回は、エッジコンピューティングとよく対比される『クラウドコンピューティング』についてブログを書きたいと思います。

Sanko IBでは、今後もエッジコンピューティングのトレンドに注目していきます。その他のIT情報やトレンドについてはお役立ち情報をご覧ください。 また、リアルタイム通信やレイテンシについてもっと詳しく知りたいという方は下記の資料もご参考にしてみてください。

資料サムネイル
Time-Sensitive Networking 入門編
BELDEN / Hirschmann スペシャルエディション
ダウンロードする 
関連情報

 

お役立ち情報一覧 

 

PAGE TOP