エッジコンピューティングとクラウドコンピューティング、IoTソリューションへの活かし方とは?

 2025年8月5日

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前回、前々回とエッジコンピューティングとクラウドコンピューティングのメリットとデメリットに触れてきました。最後となる今回は、第3弾としてエッジコンピューティングとクラウドコンピューティング、それぞれのポイントを比較しつつ、それぞれのIoTソリューションへの活かし方を探っていきます。
前回、前々回の記事はブログ最下部の関連情報よりご覧いただけます。

1. エッジコンピューティングとクラウドコンピューティング

エッジコンピューティングとは、複数のコンピュータやサーバが協力してタスクを処理する分散コンピューティングの一種であり、コンピュータネットワークの周縁(エッジ)部分でデータ処理を行うネットワーク技術全般を指します。

一方、クラウドコンピューティング(以下、クラウド)は、ユーザがインターネットなどのネットワークを通じて、外部の情報システムから各種の情報処理サービスをオンライン上で受けるものです。実際に処理を実行するサーバ、ストレージ等はサービス提供事業者側のデータセンター内に設置されており、ユーザは、自社環境やパソコンにそれらを設置する必要がないため、低限の接続環境とサービス料金といった少ない初期投資でサービスを享受することができますし、リソースの増減も容易というメリットがあります。

世界のパブリッククラウドサービスへの支出額は大きく、2023年時点で5,636億ドルまで増加したという試算もあります。さらには、今後もAI等への活用など、クラウドサービスの需要は増加傾向にあると見込まれています。クラウドは現在、導入の手軽さから様々な組織で利用され、現在主流のサービスとなっています。世界のクラウドインフラサービスへの支出額のシェアはAmazon、Microsoft、Googleの3社で7割近いシェアを占めています。

一方でクラウドと比較して、エッジコンピューティングの最も顕著なメリットは、データ転送をリクエストしてから実際に届くまでに生じるデータ通信の時間を少なく(低レイテンシ)できることです。そのため、工場のラインといったリアルタイムでのデータ処理に向いています。ネットワークを通じてデータの送受信を行うクラウドコンピューティングでは平均して約0.1秒~数秒の時間が生じますが、エッジコンピューティングではエッジ領域で処理を完結させてしまうため、データ処理にかかる時間が生じにくいのです。エッジを適度に取り入れ、クラウドサーバとのやり取り自体を減らすことができれば、総合的なコスト削減が充分に期待できます。

エッジコンピューティング クラウドコンピューティング
メリット
  • 低レイテンシ
  • ネットワーク帯域幅の節約
  • リアルタイム処理
  • 必要に応じたリソースの増減が容易
  • コスト効率
  • アクセスの柔軟性
デメリット
  • 導入にコストがかかる
  • デバイスの設置場所の物理的リスク
  • リアルタイム処理に時間がかかる
  • 帯域幅の制約

《 参考 》
総務省発行 令和5年版情報通信白書

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/index.html

2. エッジとの相互作用が生み出す付加価値

先に述べたようなエッジとクラウドの双方を利用していくことのメリットは、単にクラウドへの支出を減らすことだけに留まりません。

例えば、エッジから取得できる情報を分析したことで、工場内での廃棄物が大きく減少した実例があります。このプロジェクトチームは、Honeywell Process Systems の RTU2020 を介して、新しい計測器を接続しました。さらに、Niagara Framework® ユーザインターフェイス、エッジ分析用の Niagara Analytics Frameworkを導入し、 複数のソースからのリアルタイムのセンサーデータを作業員の巡回なしに取得・分析できる環境を作りました。
例えば、部品の温度上昇のタイミングを予測することで、冷却作業の最適化するようなことが可能になり、その結果、当該工場では欠陥と再作業が 23%、スクラップが 21% 削減され、製品の初回合格率は 96% まで高まったのです。このように、クラウドやアプリケーションのプラットフォーム上でエッジ部分から収集される情報を統合的に活かすことができれば、作業のさらなる効率化も期待できます。

さらに、近年は、TSN(Time-Sensitive Networking)といったリアルタイム通信技術の重要性が高まっています。一方で、リアルタイム操作の前提がクラウドとの通信遅延などによって崩れてしまうリスクもないとは言えません。そういったリスクも、エッジ同士のやり取りで完結させるような仕組みを作ることで、減らすことができると言えるでしょう。

※マイクロ秒(㎲)以下の精度で時刻同期を保証し、リアルタイム性を担保できるようにしたネットワーク規格
Niagaraアナリティクス
Niagara Analytics
詳しく見る 

また、セキュリティ面でいえば、エッジコンピューティングにおいては、エッジ部分が保持するデータは、大量のデータを保存するパブリックなクラウドサーバに比べて情報量自体が少ないため、ハッカーがエッジ部分をハッキングする動機自体が低減すると考えられています。しかし、さらなる安全性を求めるのであれば、生産工場におけるエッジ部分は、従来のサイバーセキュリティツールを組み合わせて導入するのにも最適な場所です。

例えば、Belden社のHirschmann製品の例で言うと、 マルチポートファイアウォールである『EAGLE40』などの高度なサイバーセキュリティ アプライアンスは、脅威検出ソフトウェアのホストとして機能し、ネットワーク内にセンサーとして導入して負荷を分散することで、今まで見つけにくかったネットワークの隅々にいたる異常まで可視化することができます。

産業用ファイアウォール Eagle40
関連製品

Eagle40:次世代タイプのマルチポートファイアウォール、IEC 62443対応

また、エッジ から、他のネットワーク管理ツールのコンテナ化されたバージョンを実行することで、デバイスや機器へのアクセス性を向上させることができます。たとえば、OpEdge-8D Gateway は、リモートアクセス機能を統合しており、使用することでユーザとデータを安全に保護することができます。このように、エッジ部分に着目して対策を行うことで、クラウドとの連携に留まらず、様々な機能性を拡張していくこともできるのです。詳しくは、以下記事も合わせてご覧ください。

《 参考 》
Using the Edge to Enhance Cybersecurity in Automotive Applications

https://www.belden.com/blogs/industrial-automation/using-the-edge-to-enhance-cybersecurity-in-automotive-applications

3. クラウドが今後は必要最低限に?エッジAIの発展

自動運転車イメージ

ここまで、エッジコンピューティングとクラウドの相互利用によるメリットをまとめてきました。一方で、エッジ部分のみで人工知能を用いて処理を完結させてしまうエッジAI技術も、自動運転、防犯カメラ、スマート家電等の分野で今まさに注目を集めています。エッジAIとは、IoTデバイスなどのローカル エッジ デバイスに AI アルゴリズムと AI モデルを直接展開することを指します。これにより、クラウド に常時依存することなく、リアルタイムのデータ処理と分析が可能になるのです。

こういった時代の中で、クラウドとエッジコンピューティングの役割はどのように変化していくのでしょうか?

NVIDIA のジェネレーティブ AI およびロボティクス AI ソリューションのマーケティング マネージャーであるTiffany Yeung 氏によれば、クラウドは、インフラストラクチャ コストに加え、スケーラビリティ、高い使用率、サーバ障害からの回復力、他のデバイスとのコラボレーションに関連するメリットを提供する一方で、エッジ コンピューティングでは、応答時間の短縮、帯域幅コストの削減にメリットがあるほか、ネットワーク障害からの回復力の高さが期待できると言います。

例えば、クラウドは、応答時間よりも高い計算能力が重要な場合に、現場のモデルを補完する AI エンジンを実行することができます。これは、Siriなどの音声アシスタントが時折、複雑な要求の解析のためにクラウドとやり取りをするといったような場合をイメージするとわかりやすいでしょう。また、クラウドは、検証中にモデルを実行したり、最新バージョンの AI モデルとアプリケーションを提供したりといった役割も担います。

このように、クラウドとエッジはそれぞれ別の役割で遺り続けることが予想されますが、一方でコスト面や効率、遅延リスクの忌避といった観点から、あらゆる現場でエッジAIの存在感が増していく可能性は高いと言えるでしょう。

《 参考 》
What Is Edge AI and How Does It Work?

https://blogs.nvidia.com/blog/what-is-edge-ai/

4. まとめ

エッジコンピューティングとクラウドの相互利用によるメリットや、今後の傾向をまとめると、以下のようになります。

  • エッジコンピューティングをクラウドと並行して活用することで、クラウドへの依存を減らすことができる
  • エッジコンピューティングを活用することで、クラウドに生じる通信時間の遅延リスクを減らすことができる
  • エッジ部分から取得した情報をクラウド等で分析することにより、さらなる業務の効率化が期待できる
  • エッジ部分にセキュリティ対策を行うことで、さらに安全にデータを保護することができる
  • 今後はクラウド依存をより減らす方向へと、エッジAI技術が進歩していく可能性も高い

これまで3回に分けてご紹介した「エッジコンピューティング」「クラウドコンピューティング」そして今回のブログでは、IoTへの相互活用についてご紹介しました。
それぞれの特徴やメリット、デメリット、活用方法等、お役立ちいただけましたら幸いです。
前回、前々回にご紹介したエッジコンピューティングとクラウドコンピューティングのブログ記事は下記をご覧ください。

 

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