SPE(Single Pair Ethernet)とは?
注目される次世代の通信規格をわかりやすく解説

 2025年10月28日

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ドイツ政府が2011年から推し進める第4次産業革命「Industrie 4.0」(IoT、AI活用)が基になり、推し進められてきた産業現場におけるIoT化は、第5次産業革命「Industrie 5.0」(キーコンセプト:持続可能性、人間中心、回復力)へと進化しようとしています。めまぐるしく進化していくテクノロジーの中でもSanko IBが注視している通信規格が「SPE:Single Pair Ethernet(シングルペアイーサネット)」です。フィールドバスの拡張性の問題からイーサネットに置き換わるためのカギになると考えられている規格となります。
今回は、産業の現場で注目されているSPEについて、なぜ今SPEが注目されているのか、市場への普及拡大が進むためにはどんな課題があるかなどをまとめてみました。

※Industrie 5.0については、世界中で議論をされているため、さまざまな表記がありますが、ドイツ政府の政策が基になっていることから、Sanko IBではドイツ語の「Industrie」で統一をしています

1. Single Pair Ethernet(シングルペアイーサネット)って
一体なに?

従来は4芯・2ペアまたは8芯・4ペアのイーサネットケーブルを介して行っていたデータ伝送を SinglePair Ethernet(シングルペアイーサネット)では2芯・1ペアでおこなうことができる通信規格です。その名の通り、シングル = 1ペア の信号線だけで通信ができる規格です。

低帯域の10Mbpsであれば、最大1000 mまでの長距離伝送が可能となり、高帯域の1Gbpsを送信する場合は、伝送距離は40mに制限されるといった特徴があります。また、データ伝送と同時に給電(PoDL: Power over Data Line)も可能で、ケーブルの軽量化やコスト削減に大きく貢献するため、産業用途や車載システムでの利用が拡大しています。

2. Single Pair Ethernetが注目されるのはなぜ?

昨今、多くの工場では、フィールドレベルのセンサーやアクチュエータからのデータを収集し、解析や予知保全といったデータ活用が行われています。さらにOTとITのネットワーク融合が進む工場では、より多くの情報活用をするためにさまざまな機器との統合が求められています。しかしながら、従来のフィールドバスプロトコルでの伝送速度は最高10~12Mbpsと、オートメーション化を進めるためのボトルネックとならざるを得ません。それだけでなく、さまざまなオートメーションシステムや機器がネットワークに統合されるにつれ、フィールドバスケーブルでは大きくかさばり、設置スペースを圧迫してしまうと いった課題もあります。
機能拡充や異なるシステムが追加される度にネットワークは複雑さを増します。さらに工場では独立した通信プロトコルが存在するため、それぞれのシステム間でデータを変換する必要があり、そのためネットワークがより一層複雑化してしまうという課題もあります。

これらの問題に対応するべく注目されたのが、「SPE:Single Pair Ethernet(シングルペアイーサネット)」(以下SPE)なのです。

※OT(Operational Technology):主に工場や発電所など産業向けのネットワーク

3. SPEは自動車業界のニーズから生まれた規格

自動車工場イメージ

実は、シングルペアイーサネットは元々、自動車の車載向けイーサネット技術として開発された規格です。 ではこの規格が開発された理由は一体何だったのか?それは、より高速での接続が求められていたからです。というのも現在の車にはさまざまなアプリケーションが搭載されています。車の走行はもちろん、安全(ブレーキ補助システム、駐車支援システム等)や快適(エアコン、ナビゲーション等)、エンターテインメント(テレビ、オーディオ等)といった機能に必要となる車載電子システムと車載ECU※の間では膨大な量のリアルタイムデータやファームウェア/ソフトウェアの情報を共有しているため、軽量(この理由は後ほど出てきます)かつ高速通信が必要だったのです。このようなニーズを満たすために開発されたのがIEEE302.3bw規格であり、そこから生まれたのがシングルペアイーサネットケーブル(100BASE-T1)なのです。
主に車載向けケーブルとして活用されていますが、現在では、ロボットやセンサーなどファクトリーオートメーションの現場でも多く採用されており、今後もさまざまな業界での活用が見込まれています。

※Engine Control Unit:車両のあらゆるシステムを制御する装置

SPE概要

4. SPEの4つの特徴

先にも少し触れていますが、もう少し詳しく見ていきましょう。
この4つの特徴を見てみると、なぜ自動車業界でこの規格が開発されたのかが見えてきます。

① 軽量化

従来、4芯・2ペアまたは8芯・4ペアが必要だったものが2 芯・1 ペアになったことで、従来のケーブルに比べてケーブル径が小さくなっていることが分かります。
径が細くなったことで省スペースとなり、狭い場所にも設置することが可能となります。
自動車業界では近年、EV自動車のバッテリーなどを搭載することが増えたため、車体はできるだけ軽量化が求められています。車体が軽くなることで、より少ないエネルギーで走行可能(燃費が良くなる)となるため軽量化は極めて重要な課題であることが分かると思います。

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② コスト削減

先に述べた「軽量化」につながる部分となりますが、2芯・1ペアになることで、ケーブルに使う材料が少なくなったことでコスト削減につながります。細いケーブルは通常の太さのケーブルに比べて曲げやすく、配線の自由度が高いといったメリットもあります。こちらは自動車業界に限らず、どの業界であっても共通の課題かと思います。

③ 電源供給が可能

1本のツイストペアだけで通信と電源供給PoDL(Power over Data Line)ができることです。 電源用のケーブルを別途用意する必要がありませんので、こちらも車体の軽量化につながるかと思います。
PoE(Power over Ethernet)とよく似ていますが、PoEは複数のツイストペアで電源を供給する技術、PoDLは1本のツイストペアのみで電源供給ができる技術です。

PoDLとPoEの違い

④ 長距離伝送

100mを超える場合、本来は光ファイバーを使わなければいけないところですが、データ伝送10Mbpsの低速に限り、シングルペアイーサネットなら最大1000mの伝送距離を実現、一方、中距離(40m)であればデータ伝送1Gbpsを実現します。

 

以上のように軽量でなおかつ電力供給もできるとなれば、車載用ネットワークに選ばれるのも納得がいくかと思います。

5. SPEの導入拡大を後押しするもの

自動車業界を中心に産業現場でのSPEの導入が広がっている理由として、以下の3つの理由が考えられます。

① センサーからクラウドへのデータ伝達


データ伝送

近年、産業の現場でのスマート化が進み、さまざまなセンサーやアクチュエータ等、エッジデバイスからのデータ収集・データ活用が進んでいます。それらのデータをリアルタイムにクラウドに送信・解析するといったニーズが高まっていることが1つ目の理由として挙げられます。SPEを活用することで、IPベースで直接クラウドに送信ができるようになるといったメリットがあります。

② イーサネットプロトコルへの転換

プロトコル

産業現場ではさまざまな異なる通信プロトコル(EtherNet/IP、Modbus、PROFINET等)が混在しており、OTとITとの融合といった観点からもイーサネットベースに統一したいというニーズが高まっています。OTとITの分断問題はかなり前から顕在化している問題ですので、SPE技術によりOTとITとの融合の促進も期待されます。

③ 自動化、ビックデータ、AIのデータ活用


データ分析

スマートファクトリーやファクトリーオートメーションの現場での最適化のカギとなるのは『大量のデータをリアルタイムに取得・活用する』ことです。これらのデータはイーサネットベースであることが多いため、フィールドバスが多い産業現場では連携が難しいところがありました。しかし、SPEであればイーサネットベースのため、データ連携のためのネットワーク基盤の提供といった面も理由として挙げられます。また、長距離通信が可能ということもあり、中継器が不要であることも理由の1つかと思います。

6. 簡単ではない?SPE導入拡大における3つの課題

導入拡大が見込まれる一方で、イーサネットのように広く普及するにはもう少し時間がかかるのではないかと考えています。自動車業界やファクトリーオートメーションの現場では既に実用化が進んでいますが、SPEの導入が一部の産業現場だけに留まっているのには3つの課題があると思っています。

① 特殊なコネクタ

SPEでは、少し特殊なコネクタが採用されています。規格化はされていますが、特殊な形状のため、対応している機器が現状少ないといった点が挙げられます。例えば、ケーブルだけをSPEにしたとしても受け側がそれに対応していなければ意味がありませんし、ロボットアームなど機器の内部に組み込まれたものを置き換えするとなれば、なお難しいでしょう。
現在、さまざまなメーカーから対応機器も発売されていますが、市場への普及にはもう少し時間がかかるのではないかと思います。

コネクタ
BETLE
SPE対応 ライトマネージド
スイッチ
  • IP40ハウジング仕様
  • M8 10BASE-T1Lダウンリンク × 8(10BASEのSPEの伝送距離:1,000m)
    RJ45 100BASE-TXアップリンク × 2
  • 汎用性の高いM8コネクタを採用(IEC 63171-6標準に基づく)
  • 動作温度範囲は-10℃~ +60℃
  • PoDL Class12に対応
  • VLANなどのネットワーク機能対応
  • OPC UA、EtherNet/IP、Modbus TCPをサポート

② 電源供給(PoDL)の限界

IEEE 802.3buに記載があるようにPoDLでは最大50Wの給電が可能です。電力を供給できるとはいえ、消費電力が大きなアクチュエータ等には十分に電力が供給できない場合があり、その場合は従来の電源と併用する必要があるため、現時点ですべてのフィールドバスの置き換えは難しいかもしれません。

③ レガシーシステムとの互換性

現時点でレガシーシステムとの直接の互換性はなく、互換性のある変換機やゲートウェイの導入が必要となります。そのため、新たな機器の導入といったコストがかかることも想定されます。こちらは互換性だけでなく、導入コストも障壁になる可能性がありそうです。

7. まとめ

自動車業界など一部の業界では既に導入が進んでいるSPEは次世代の規格としてさまざまな業界から注目され、導入が進んでいくと予想されています。

市場

Belden社「産業分野におけるシングルペアイーサネット」資料より抜粋

SPEは『フィールドバスからイーサネットに置き換わるためのカギになる』と考えられていますが、普及拡大にはいくつかの課題もあり、フィールドバスのまったくの『置き換え』というよりも、『補強』といった形で今後、普及していくのではないかと思います。

Sanko IBでは今後もSPEの動向に注力しながら情報をキャッチアップしていく予定です。
また、SPEに対応した産業用スイッチやケーブル、カスタマイズ用のコネクタ(パーツ)などのご用意もありますので、お気軽にお問い合わせください。

今回のブログに補足を加えたホワイトペーパーをご用意しておりますので、より詳しい内容を知りたい方はダウンロードしてみてください。

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