【 第2回 】ITとOTはなぜすれ違うのか 文化と優先順位の違い

 2026年8月4日

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連載第1回目では、サイバー攻撃によって工場が停止する時代になっていることを解説しました。そしてブログの最後に、
「現場とITと経営が分断されたままでは工場は守れない」
「ITは止めて直すができても、OTはそもそも止められない」

という話で締めくくりました。
第2回目となる今回は、ITとOTのあいだに横たわる「文化と優先順位の違い」について掘り下げたいと思います。

【第1回】OTネットワークセキュリティ
【 第1回 】
なぜ今、工場のネットワークセキュリティなのか
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1. ITとOTのすれ違いははぜ起こるのか

OTセキュリティを進めようとする現場では、よく次のような会話が起きます。

IT
IT部門
このPCは危険なので、すぐに更新してください
現場
この端末はラインにつながっているので、簡単には止められません
OT
IT
IT部門
不審な通信があったので、すぐ切り離します
現場
切り離した瞬間にHMI(操作画面やタッチパネル)が止まって、生産が停止します
OT

このすれ違いは、知識不足や部門間の対立ではありません。ITとOTでは、守っている対象と優先順位が根本的に違うために起きています。この違いを理解しないまま対策を進めると、セキュリティ対策そのものが工場停止の引き金になりかねません。

2. CIAの優先順位 ITは機密性、OTは可用性

セキュリティの基本概念にCIAという考え方があります。

Confidentiality 機密性 情報を見られないようにすること
Integrity 完全性 情報が改ざんされないようにすること
Availability 可用性 必要な時に使えるようにすること

これらの頭文字を取ったものです。
情報を見られないようにする、改ざんされないようにする、必要なときに使えるようにする――この3つを守ることがセキュリティの基本です。

ここでITとOTが大きく分かれます。

IT環境では、機密性が最優先されます。顧客情報、設計情報、個人情報、取引情報が外部に漏えいすれば、損害賠償や信用低下、取引停止につながります。そのためIT部門では「危険な端末はすぐ切り離す」「脆弱性があれば早くパッチを当てる」「不審な通信があれば止める」という判断が自然になります。情報を守るためなら、システムを一時的に止めることも厭わない――これがIT文化の根底にあります。

一方、OT環境では、可用性が最優先されます。工場では、設備が止まれば生産が止まります。生産が止まれば、納期遅延、歩留まり悪化、仕掛品の廃棄、再立ち上げの手間が発生します。設備によっては安全確認や品質確認が終わるまで再開できません。

例えば、ある制御PCに不審な通信が見つかったとします。IT部門の感覚では、まずネットワークから切り離したくなります。しかし、そのPCがHMI(オペレーター用の操作画面)として使われていれば、切り離した瞬間に現場の操作画面が見えなくなります。PLCと常時通信していれば、通信断によってラインが停止するかもしれません。

ITでは正しい初動対応が、OTでは生産停止の引き金になります。重要なのは、ITが間違っている、OTが正しいという話ではありません。守る対象が違うため、優先順位が違うということです。

CIAの優先順位

3. ライフサイクルの違い 3年~5年のIT、10年~20年のOT

ITとOTのすれ違いは、機器のライフサイクルの違いからも生まれます。
IT機器は比較的短い周期で更新されます。PCやサーバは3年から5年程度で入れ替えることが多く、OSやアプリケーションも継続的にアップデートされます。クラウドサービスであれば、利用者が意識しないうちに更新されることもあります。ITは、変化することを前提に運用されています。

一方、OT機器は長期間使われます。工場設備は10年、15年、20年と稼働することも珍しくありません。一度安定して動いた環境をできるだけ変えないことが、生産現場の鉄則です。
その結果、OT現場では次のような状態が当たり前に存在します。古いWindows端末が制御PCとして残っている、ベンダー指定のOSバージョンから変更できない、PLC通信ドライバが古い環境でしか動かない、当時の設定資料や手順書が残っていない、復旧できる担当者が退職している、ベンダー保守契約がすでに切れている――これらは特殊な例ではなく、多くの工場で日常的に見られる光景です。

IT部門から見ると「古いOSを使い続けるのは危険」に映ります。これは正しい見方です。しかし、OT現場から見ると「更新した結果、設備が動かなくなるほうが怖い」のです。これも実態としては正しい見方です。

実際、稼働中の制御PCにWindows Updateを適用したところ、再起動後にHMIソフトが起動しない、PLCとの通信が復旧しない、ライセンス認証が外れる、といった事故は現場で何度も繰り返されています。セキュリティ対策のつもりで実施した作業が、生産停止の原因になる――これがOT環境の現実です。

つまり、OTセキュリティでは「古いからすぐ更新する」だけでは不十分です。更新できるものは計画的に更新する。直接更新できない場合は、ネットワーク分離、アクセス制限、監視、バックアップによって、周囲の守りを固めてリスクを下げる考え方が必要になります。

IT
IT環境
(情報システム)
項目 IT
OT環境
(制御・生産システム)
3年~5年
PC・サーバ・アプリは定期的に更新
更新周期
(目安)
10年~20年
設備・制御機器は長期間使用
OSやアプリは継続的にアップデート
(自動更新やクラウド更新も一般的)
ソフトウェア更新 ベンダー指定版から更新できない場合が多い
更新は計画停止時に限定
3年~5年で入れ替え一般的 稼働年数
(実例)
10年・15年・20年以上稼働することも珍しくない
変化を前提に運用
新しい技術やサービスを積極的に採用
変化への許容度 変化を嫌う文化
一度安定した環境はできるだけ変えない
停止しても影響は限定的
(業務影響はあるが回復可能)
更新リスク 更新や設定変更で設備停止・品質影響が発生するリスクが高い
IT部門が主導し、
標準化・自動化が進んでいる
運用体制 現場(保全・生産技術)が主導
個別対応・俗人化しやすい

4. 文化の違いを越えるための共通言語

共通言語

IT部門は「この端末には脆弱性があるので危険です」と言います。
OT現場は「この端末はラインにつながっているので止められません」と言います。
どちらも正しいのですが、このままでは議論が進みません。

必要なのは、同じ情報を見ながら話し合うことです。

  • その端末はどの設備につながっているのか
  • どのPLCやHMIと通信しているのか
  • 止めるとどのラインに影響するのか
  • 停止した場合に一日あたりどの程度の損失になるのか
  • 脆弱性を悪用された場合にどこまで影響が広がるのか
  • すぐにパッチを当てられない場合に通信を絞れるのか
  • 次の計画停止で何を実施できるのか

この整理ができると、「危ないから更新する」「止められないから何もしない」という二択から抜け出せます。すぐに更新できない制御PCがあったとしても、事務所LANから直接アクセスできないようにする、必要な通信だけに制限する、USB利用ルールを整備する、次回の計画停止で更新する――こうした代替策を検討できるようになります。

そのためには、IT部門、OT現場、工場長、経営層が同じ場で会話する仕組みが必要です。特に中小工場では、IT部門と製造部門が日常的に話す場がないことも珍しくありません。まずは、設備停止や更新作業について、保全担当者、生産技術者、情報システム担当者、工場長が同じ情報を見られる状態を作ることが出発点です。

5. まとめ

OTセキュリティは、IT部門だけでも、現場だけでも完結しません。現場の制約をIT部門に伝え、IT部門の危機感を現場が理解し、経営層が停止リスクと投資判断を引き受ける――この三者の連携こそが、OTセキュリティの出発点です。
次回、第3回からは、その共通言語の入口として、ネットワークの基本である「OSI参照モデル7階層」を工場の現場目線で解説していきます。

【第1回】OTネットワークセキュリティ
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