《 海外レポート 》
知られざる地域熱供給システムの可能性とスマートシティのこれから

 2023年7月11日

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2022年は世界的な電気代の高騰が話題になりました。しかしながら、寒冷地域が多く、暖房による電力消費を避けられないイメージのあるヨーロッパでも、実は電気代がそれに伴って高いとは限りません。かつてより地域熱供給が積極的に取り入れられてきたからです。

地域熱供給とは、 冷・温水 等を一箇所でまとめて製造し、 導管 を通じて街や建物に供給するシステムのことです。日本でも万博博覧会開催時の大阪をはじめとし、一部地域で導入されていたものですが、近年スマートシティや災害レジリエンスの文脈で、再び地域熱供給システムに注目が集まっています。今後ビルディングマネジメントシステムは、個々のビルだけではなく、一つの地域など、より広い範囲で運用されていく時代が来るのかもしれません。今回はフィンランドの実際のスマートシティの事例も含めながら、地域熱供給システムの実情とその発展性について触れていきます。

1. 地域熱供給システムとは?

地域熱供給とは、 冷・温水 等を一箇所でまとめて製造し、 導管 を通じて街や建物に供給するシステムのことです。個々の建物で熱源設備を設置する『個別熱源方式』に比べ、熱源設備の集中管理と街全体への効率的なエネルギー供給を行う『地域熱供給』は、省エネルギー性・環境保全性・防災性に優れているとされています。また、安定供給が可能な施設から一括で電気を供給できるので、災害時の電力復旧も早いと言われているのです。

個別熱源方式と地域熱供給

地域熱供給システムは、1875年の帝政ドイツにおいて世界初の地域暖房が開始されて以降、特に北ヨーロッパ地域において広く普及していたシステムです。しかし、日本にも様々な場所に地域熱供給システムは存在します。日本の本格的な地域熱供給は、1970年の日本万国博覧会を機に大阪千里エリアからスタートしました。現在は商業施設エリアを中心に19都道府県、134地域で事業が実施されています。
大阪万博開催時の1970年代には、当時懸念されていた大気汚染防止目的で注目を集めた地域熱供給システムですが、省エネなど時代のニーズに合わせ変化を遂げ、現在はスマートシティやBCD(業務継続地区)に必要不可欠なエネルギー供給システムとしても注目が集まっています。
2016年には熱供給事業法の改正も行われました。これにより、事業者の許可制は登録制に、料金設定等の供給規定の認可も廃止となりました。今後は、地域の特性に応じた新たなエネルギーマネジメントの計画が、各地で立ち上がっていくのかもしれません。地域熱供給システムは今後注目すべきトピックの一つと言えるでしょう。

2.フィンランドにおける地域熱供給システムの特徴

それでは、現代におけるヨーロッパの地域熱供給の実態はどうでしょうか?
実は、地域熱供給システムは、特に北欧諸国においては暖房の一形態として支配的な地位を占めています。例えば日本と同様に火山が多く、地熱エネルギーに安価にアクセスできるアイスランドでは、全体の暖房設備の約 90% が地域熱供給システムによるものです。アイスランドほどではないものの、デンマーク、スウェーデン、フィンランドでは、家庭の約半数が地域暖房を活用していると言われています。
今回はフィンランドの事例をメインに、北欧で地域熱供給システムが商業施設から一般家庭にいたるまで広く普及している理由を探っていきましょう。

前述したように、フィンランドでは、地域熱供給システムによる暖房設備はKaukolämpö (以下、地域暖房) と呼ばれ、現在暖房設備全体の約 46% を占めています。戸建住宅におけるシェアは 7%程度と低いものの、集合住宅におけるシェアはたいへん高いです。特にヘルシンキの都市圏においては地域暖房の市場シェアは 90% を超えているとされています。新築においてもそれは変わらず、新築マンションの 95% 以上が地域暖房に接続されており、新築の商業ビルであっても75% が地域暖房に接続されているそうです。部屋を個別で温めるより、さらに効率の良い方法でフロア全体を温めることができ、設備工事費等の負担も少なくて済む地域暖房は、長期的な視点で見ればコスト面で大きなメリットがあります。また、料金設定に関する規制は今のところ定められていないものの、熱供給事業の事業主体は地方自治体出資によるものが多く、規制当局による事後監視が行われたり、エネルギーサービスに関する法律により、料金設定方法等の詳細情報の提供が義務づけられていたりするため、安心して利用し続けられる土壌があると言えるでしょう。
また、従来は暖房設備のみがメインでしたが、2000年頃からは近年高まる商業施設等での需要に合わせ、暖房設備だけでなく、海水等による冷却水を利用した冷房設備も続々と導入が進んでいるそうです。 また、地域暖房の一次エネルギー供給の構成を見てみると、豊富な森林資源を基盤としたバイオマス燃料の利用も然ることながら、近年は化石燃料の使用料の削減が急ピッチで進んでいることも読み取れます。

地域暖房の一次エネルギー供給の構成(2000~2021年)
グラフ

出典:Tilastokeskus (stat.fi)

フィンランドは2035年までにカーボンニュートラルな社会を目標としています。EU全体ではカーボンニュートラルに関して2050年までに達成するとの目標を掲げていますが、北欧諸国には2035年~2045年にかけて前倒して計画達成を掲げる都市が多くあり、首都ヘルシンキはその先頭を行く都市の一つです。実際にヘルシンキでは、ヘルシンキ・エネルギーチャレンジ・コンテストが行われ、200を超えるアイデアが世界中から集まりました。
加えて、フィンランドはデータセンターの建設が盛んな地域でもあります。フィンランド中部に位置するカヤーニという町では、実際にデータセンターの排熱を利用し、地域暖房の2割を作り出しているとのことです。

《 参考 》データセンターの余熱利用についての記事
https://energychallenge.hel.fi/heating-helsinki-today

地域熱供給システムは、その地域固有の熱源を反映できるのも大きな利点と言えるでしょう。ちなみに、フィンランドの隣に位置しフィンランドの二倍ほどの人口を抱えるスウェーデンでは、都市部に集合住宅が多いことも影響し、地域暖房のシェアは暖房設備全体の需要の60%を超えます。バイオ燃料のほか、廃棄物を燃焼等で処理する際の排熱が地域暖房に利用されることも一般的です。

地域暖房の混合燃料(スウェーデン)2021年
地域暖房の混合燃料

Energiföretagen Sverige - Swedenergy - AB (energiforetagen.se)のデータを基にSanko IBが編集

スウェーデンでは、2002年にごみの埋立てを広範囲にわたり禁止する法律ができたこともあり(埋立ては廃棄物全体の1%以下に抑える)、廃棄物処理に関連して多くのイノベーションが生まれました。ごみの分別基準も、日本より厳しく設けられています。

ストックホルムエクセルギー社によるごみの分別の例
ごみの分別ガイド

※日本と同様に可燃、不燃ごみ、瓶、再生紙の分類のほか、金属類、衣類のリユースボックスも一般的です。
医薬品の容器の多くは薬局に返却します。ペットボトルや缶類に関してはPANTと呼ばれるシステムが存在し、スーパーマーケットの専用リサイクルボックスに持っていくと、2023年現在で1本につき1~2スウェーデンクローナ(日本円で12円~25円)分のクーポンに交換、もしくはスーパーマーケット提携の各種基金へ寄付ができます。

日本にもスウェーデンと同様の地域熱供給システムが東京の台場地区など一部地域で存在しますが、規模の大きさに驚かされるのではないでしょうか?

《 参考 》臨海副都心の地域熱供給 | 東京臨海熱供給株式会社
https://youtu.be/0gsGQpglnlk

また、さらにエネルギー効率を高めるための積極的な設備投資も行われています。
設備のIoT化が進み、スマートシティ計画にも注目が集まる昨今では、その土地独自の地域熱供給システムの発展にもますます目が離せなくなりそうです。

《 参考 》三菱重工とのコラボレーション
https://www.mhi.com/jp/news/22012601.html

3.ZEBはビル単体より、地域単位でも取り組むべき?

かつてより行われていた地域熱供給システムの事例では、町あるいは国ぐるみの取り組みが目立ちました。
一方で、近年は、ビル単体のエネルギー効率を高めるスマートビルディングの世界市場規模が急激に成長しています。また、昨今はスマートビルディングの中でも、特にZEBに関心が集まっています。ZEB(ゼブ)とは、Net Zero Energy Buildingの略称です。快適な室内環境を保ちながらも、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。人々が生活する建物の中では、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできません。しかし、使うエネルギーを極力減らし、同時に太陽光発電パネル等を用いて消費するエネルギーを補うことで、エネルギー消費をビル全体でゼロにすることができるというアイデアです。

しかし、フィンランドにはビル単体だけではなく、地域全体でネットゼロを目指していく試みも存在します。地域熱供給システムに限らず、地域全体でエネルギー効率の改善に取り組む試みとして、ヘルシンキで最先端のスマートシティの一つであるカラサタマ地区に注目してみましょう。

カラサタマ地区

ヘルシンキ・カラサタマ地区

カラサタマ地区は1800 年代後半から工業・港湾地域として栄えていましたが、現在は積極的なスマートシティ計画が進む地域です。2013年以降、ヘルシンキ市が地元の関係者や大学と協力し、地区一帯を都市インフラやサービスを共同作成するための実験的イノベーション プラットフォームに転換しました。地域内のプロジェクトでも多くのコンペティションが催され、自動運転車両等の最先端の試みが進んでいます。また、こういった試みはスタートアップ企業の挑戦を後押しする原動力にもなっています。
現在は地域内に風力や太陽光発電設備を設置し、地産地消エネルギーにこだわるだけでなく、シェア自動車や、幹線パイプを通じて廃棄物を収集ステーションに直接輸送するシステムなども整備されています。もちろん、廃棄物処理に伴い発生した熱は、エリア内の地域暖房システムに再利用されます。

参考:カラサタマ地区の廃棄物を収集ステーションに集める仕組み
https://www.youtube.com/watch?v=SvnpAb5vRrc

同時にカラサタマ地区は今話題のKNXによるシステムが世界で最も積極的に取り入れられている場所の一つです。区域内のビルディングマネジメントシステムにはKNXが標準として使用され、2018年にはカラサタマ地区内の住宅施設がKNXアワードの最優秀賞を受賞したことでも話題になりました。

KNXとは、国際規格で標準化されたオープンなホーム・ビルオートメーションのプロトコルです。KNXの設定やコミッショニングで使用されるツールは、メーカーを問わずETS(Engineering Tool Software)に統一されていることで、ETSの使い方さえマスターすれば、どのようなKNXの物件でも設定が可能になります。
KNXシステムの導入により、従来のビルディングマネジメントシステムと同様、冷暖房、照明、セキュリティなどの建物の機能を柔軟に制御することが可能になります。現在住民は、照明設備にはじまり、サウナ、オーブン、電気自動車の充電設備等を含む電気の消費量と温冷水の消費量をスマートフォンやタブレット コンピューターで調整し、管理することができるそうです。システムの導入により、10~15%エネルギー消費量の削減が達成されたとの試算結果も出ています。

参考記事:https://new.abb.com/low-voltage/products/building-automation/service-and-tools/references/kalasatama

しかし、KNX導入のメリットはそれだけではありません。KNXシステムはオープンプロトコルかつ、認定製品間の高い相互接続性と、後方互換性を持ちます。そのため、地域全体にKNXを標準として導入することで、リノベーションも容易になるだけでなく、様々な新規サービスの参入が可能になるのです。今後も様々なエネルギー効率を向上させるシステムや自動化ソリューションが生まれていく可能性が期待されています。リアルタイムで進むカラサタマ地区の試みについては、ウェブサイト上 ( https://fiksukalasatama.fi/ )で確認することもできるようになっていますよ。

KNXについて
  • マルチベンダー環境で、認定製品間の抜群の相互接続性
  • 唯一のツールETSで全メーカーの認定製品も設定可能
  • 30年前の物件もリノベーションできる規格の後方互換性を堅持
  • 膨大な数の認定製品で、あらゆるニーズに対応
  • 欧州譲りの高いデザイン性
  • 世界170か国、10万人以上の認定インテグレータの存在
  • 企画・製品・教育・認定の各コミュニティがトータルに支援
  • DALI、BACnet等 他のオープのプロトコルとの高い親和性
  • IoT等 新しい技術にも対応

出典:一般社団法人 日本KNX協会

4. まとめ

いかがでしたか?
地域熱供給システムは以前より存在するシステムではありますが、地方創生計画やスマートシティ計画との兼ね合いで、エネルギー効率を劇的に高めてくれることが期待される分野の一つです。加えて、北欧のスマートシティ計画にはオープンプロトコルのシステムが積極的に取り入れられることで、新たなイノベーションが生まれやすくなっている点も興味深いですね。

Sanko IBではKNXの他、DALIやBACnetなど他のオープンプロトコルに関しても知見があります。当社の取り組みについてご興味のある方はぜひお気軽にお問合せください。

 

《 筆者紹介 》海外特派員Y.M

照明士の資格を持つヨーロッパ圏在住の海外特派員。
現地語にあたふたしながらもヨーロッパのイベント情報や市場調査に勤しんでいる。

 

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