【 第3回 】ネットワークの共通言語 OSI参照モデル7階層をやさしく解説
2026年9月29日
連載第2回目では、ITとOTの文化と優先順位の違いについて解説しました。そして、その違いを越えるためには「現場、IT、経営が同じ情報を見ながら話し合うこと」が必要だと締めくくりました。
今回からは、その「共通言語」の入口として、ネットワークの基本を解説していきます。最初のテーマはOSI参照モデルです。
1. OSI参照モデルとは
「OSI参照モデルなんて知らなくても、ケーブルを挿せば通信できる」――これは現場でよく聞かれる声です。確かに、普段の業務でこの言葉を意識する必要はほとんどありません。しかし、いざトラブルが起きたときに「どこに問題があるのか」を切り分けるためには、ネットワーク通信の構造を知っておくと大きな武器になります。
例えば、「PLCと通信できない」と一言で言っても、ケーブルの問題なのか、IPアドレスの問題なのか、アプリケーションの問題なのか、原因はさまざまです。OSI参照モデルは、こうした通信の仕組みを階層ごとに整理し、「どこに問題があるのか」を考えるための地図のようなものなのです。
2. 通信を7つの層に分けて考える
OSI参照モデルとは、ネットワーク通信を7つの階層に分けて整理した考え方です。OSIはOpen Systems Interconnectionの略で、国際標準化機構(ISO)が定めた通信モデルです。
| 上位層 | 第7層(L7) | アプリケーション層 |
| 第6層(L6) | プレゼンテーション層 | |
| 第5層(L5) | セッション層 | |
| 下位層 | 第4層(L4) | トランスポート層 |
| 第3層(L3) | ネットワーク層 | |
| 第2層(L2) | データリンク層 | |
| 第1層(L1) | 物理層 |
下から順に、物理層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層――この7階層で構成されます。なぜ階層化されているかというと、通信の役割を分担することで、壊れたときにどこを見ればよいかが分かるようにするためです。
なお、実際の通信の多くはTCP/IPという別のモデルで動いていますが、OSI参照モデルは「ネットワークを理解するための共通言語」として今も広く使われています。両者は対応関係にあり、OSIモデルを理解しておけばTCP/IPの世界もスムーズに読み解けます。
3. 各層の役割と「壊れたら現場で何が起きるか」
それぞれの層がどんな役割を持ち、壊れたときに現場で何が起きるのかを見ていきます。
第1層 物理層
ケーブルやコネクタ、電気信号の世界です。LANケーブル、光ファイバ、RJ45コネクタなどがここに該当します。
そもそも通信が成立しません。現場では「リンクランプが点灯しない」「通信が完全に途切れる」といった症状で現れます。原因はケーブル断線、コネクタ接触不良、ケーブルを踏みつけた、フォークリフトに引っ掛けた、といった物理的な事象です。
第2層 データリンク層
同じネットワーク内で、機器同士が直接やり取りするための層です。スイッチングハブ(L2スイッチ)が動く層で、MACアドレスを使って通信先を識別します。
「ケーブルは挿さっているのに通信できない」「同じ島の機器とは通信できるが、他の島とは通信できない」といった症状が出ます。
第3層 ネットワーク層
異なるネットワークの間で通信を中継する層です。ルータやL3スイッチが動く層で、IPアドレスを使って通信先を識別します。
「同じ工場内のPLCとは通信できるが、別棟のサーバとは通信できない」「インターネットに出られない」といった症状が出ます。
第4層 トランスポート層
アプリケーション間のエンドツーエンド通信を担う層です。TCPやUDPがポート番号を使用して通信先のアプリケーションを識別します。TCPは順序制御や再送制御によって信頼性のある通信を提供します。UDPは到達や順序を保証しないコネクションレス方式です。
「通信は届いているが、途中で抜ける」「データが正しく届かない」といった症状が出ます。
第5層 セッション層 / 第6層 プレゼンテーション層 / 第7層 アプリケーション層
ここから上は、アプリケーションが動くための層です。通信のセッション管理、データの暗号化や圧縮、実際のアプリケーション処理が行われます。HMIソフトやSCADAソフト、Webブラウザなどがこの層で動きます。
OT現場では、ここで起きるトラブルが特に分かりやすく症状として表れます。HMI画面が表示されない、SCADAにログインできない、OPC UAの接続認証で失敗する、上位システムへ生産実績データが送れない――こうした事象はすべて、第5層から第7層のどこかで起きている問題です。「ネットワークは生きているように見えるのに、アプリケーションだけ動かない」という状態は、現場で頻繁に遭遇する典型パターンです。
***
トラブルが起きたら、下の層から順番に確認していくのがセオリーです。ケーブルが繋がっているか(第1層)、リンクは上がっているか(第2層)、IPアドレスは正しいか(第3層)、通信は届いているか(第4層)、アプリケーションは動いているか(第5層以上)――この順で切り分けると、原因に辿り着きやすくなります。
4. 工場で使われる通信プロトコルとOSIモデル
工場で使われている通信プロトコルも、このOSIモデルのどこかで動いています。代表的なものを見ていきます。
Siemens系設備で多く使われる制御通信プロトコルです。ドイツ発祥の産業用Ethernetで、Ethernetをベースに第2層から上で動きます。リアルタイム性が求められる用途で多く採用されています。
ロックウェル・オートメーション(Allen-Bradley)系PLCで多く使われる制御通信プロトコルです。TCP/IPの上で動くため、第4層より上に位置します。
Modicon社が考案したModbusプロトコルをTCP/IP上で動かす形式です。古くから使われるシンプルな通信で、現在も多くのPLCや計装機器で採用されています。
ITとOTのデータ連携で使われる通信プロトコルです。異なるメーカーのPLCやSCADA、上位システムが共通言語で会話できるようにする仕組みで、製造業のスマートファクトリー化を支える標準として近年急速に普及しています。
Niagaraで構築するスマートビルディングソリューション
プロトコル編
| 階層名 | 主な役割 | 工場での具体例 |
|---|---|---|
| 第7層(L7) アプリケーション層 |
利用者のアプリケーションが通信サービスを利用する | HMI/SCADAソフト、OPC UAクライアント、Webブラウザ、MES、メールソフト等 |
| 第6層(L6) プレゼンテーション層 |
データの形式変換、暗号化、圧縮などを行う | データの暗号化機能、文字コード変換、圧縮・伸長機能など |
| 第5層(L5) セッション層 |
通信の開始・維持・終了を管理する | HMI/SCADAのセッション管理、リモート接続など |
| 第4層(L4) トランスポート層 |
信頼性のある通信(TCP)、コネクションレス通信(UDP) | TCP、UDP |
| 第3層(L3) ネットワーク層 |
異なるネットワーク間の通信経路を決定(IP) | ルータ、L3スイッチ、IPアドレス |
| 第2層(L2) データリンク層 |
同一ネットワーク内でのフレーム転送(MACアドレス) | L2スイッチ、ブリッジ、VLAN、MACアドレス |
| 第1層(L1) 物理層 |
電気通信・光信号の送受信、ケーブル・コネクタの仕様 | LANケーブル、光ファイバ、コネクタ、リピータ、ハブ |
アプリケーション層
具体例
プレゼンテーション層
具体例
セッション層
具体例
トランスポート層
具体例
ネットワーク層
具体例
データリンク層
具体例
物理層
具体例
これらのプロトコルは、それぞれOSIモデルの異なる層で動いています。例えば、「PLCが応答しない」というトラブルでも、PROFINETを使っていれば第2層レベルの問題かもしれませんし、Modbus/TCPを使っていれば第3層から上の問題の可能性があります。使っているプロトコルがどの層で動いているかを知っておくと、トラブル対応のスピードが変わってきます。
物理層
リンクランプは点灯しているか?
- ケーブル断線・接触不良
- コネクタの抜け・破損
- 給電機器の故障
データリンク層
MACアドレスで通信できているか?
- VLAN設定ミス
- MACアドレス学習異常
- スイッチのポート障害
ネットワーク層
ルーティングは通っているか?
- IPアドレスの設定ミス
- ルーティング設定ミス
- ファイアウォールで遮断
トランスポート層
ポートは開いているか?
- ポート番号の間違い
- TCPの切断・タイムアウト
- UDPのパケットロス
セッション層
接続が頻繁に切れていないか?
- セッションタイムアウト
- 同時接続数の上限超過
プレゼンテーション層
- 暗号化設定ミス
- 文字コードの不一致
- データ形式の不一致
アプリケーション層
ログインできるか?
データは表示されるか?
- HMI/SCADAの設定ミス
- ライセンス切れ
- OPC UAの認証エラー
- 上位システムの停止
リンクランプは点灯しているか?
→
- ケーブル断線・接触不良
- コネクタの抜け・破損
- 給電機器の故障
MACアドレスで通信できているか?
→
- VLAN設定ミス
- MACアドレス学習異常
- スイッチのポート障害
ルーティングは通っているか?
→
- IPアドレスの設定ミス
- ルーティング設定ミス
- ファイアウォールで遮断
ポートは開いているか?
→
- ポート番号の間違い
- TCPの切断・タイムアウト
- UDPのパケットロス
接続が頻繁に切れていないか?
→
- セッションタイムアウト
- 同時接続数の上限超過
→
- 暗号化設定ミス
- 文字コードの不一致
- データ形式の不一致
ログインできるか?
データは表示されるか?
→
- HMI/SCADAの設定ミス
- ライセンス切れ
- OPC UAの認証エラー
- 上位システムの停止
5. なぜOTセキュリティでOSIモデルを理解するのか
OSI参照モデルを理解するメリットは、トラブル対応だけではありません。セキュリティ対策を考えるうえでも重要な視点になります。
「ファイアウォールを入れましょう」とベンダーから提案されたとき、それで本当に十分でしょうか。実は「セキュリティ対策を入れる」と一言で言っても、どの層でどう守るかによって、対策の意味も効果もまったく変わってきます。
VLANで分けるのか、IP通信を制御するのか、アプリケーション単位で認証するのか。VLANによるネットワーク分割は第2層の話です。ファイアウォールは主に第3層と第4層で通信を制御する機器です。アプリケーション制御や認証は第7層の話です。どの層で守るかによって、必要な機器も、止められる攻撃も、コストも変わってきます。
ベンダーからセキュリティ対策の提案を受けたときに、それがどの層に効くものなのか、自社の課題に合っているのかを判断するためにも、OSIモデルの理解は役立ちます。
連載が進むにつれて、L2スイッチとL3スイッチ(第5回)セグメンテーション(第6回)、IDMZ(第7回)といった話が出てきますが、これらはすべて「OSIモデルのどこで何をするか」という観点で整理することができます。
6. まとめ
いかがでしたでしょうか?
最後に今回の内容をまとめてみます。
- OSI参照モデルは通信を7つの層に分けて整理する考え方
- トラブル発生時の原因切り分けに役立つ
- 工場で使われる通信プロトコルもOSIモデルで整理できる
- セキュリティ対策を理解するための共通言語になる
OSI参照モデルは、ネットワーク通信の基礎知識となりますので、覚えておくとよいかと思います。
次回は、OSI参照モデルの中でも特にトラブルが起きやすい部分――機器を識別するための「MACアドレス」と「IPアドレス」について、現場で起きるアドレス起因の事故事例とあわせて解説していきます。



