【 第4回 】MACアドレスとIPアドレス 機器を識別する二つの住所

 2026年10月27日

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「PLCを交換したら、隣のラインまで止まった」――工場の保全担当者であれば、一度は耳にしたことがある話ではないでしょうか。実際にはなんらかの設定ミスや管理不足が原因ですが、こうした事故は決して特殊なものではなく、今もどこかの現場で起きています。

このようなトラブルの多くは、機器が通信相手をどのように識別しているかを理解することで原因を把握しやすくなります。その鍵となるのが、「MACアドレス」と「IPアドレス」です。

ネットワークに接続された機器には、「MACアドレス」と「IPアドレス」という2つの住所が割り当てられています。この両者の役割を正しく理解していないと、機器交換時の設定ミスや通信トラブルの原因を特定することは容易ではありません。また、トラブル対応だけでなく、資産管理やセキュリティ対策の基礎としても欠かせない知識です。

本記事では、前回解説したOSI参照モデルを踏まえながら、MACアドレスとIPアドレスの違い、それぞれの役割について分かりやすく解説します。

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1. MACアドレスとは?機器が生まれながらに持つ住所

MACアドレスは、ネットワーク機器一つひとつに、製造段階で割り当てられている識別子です。原則として世界中で重複しないように、メーカーごとに範囲が決められています。

例えば、PLCにもHMIにも、産業用スイッチにも、保守用ノートPCにも、それぞれ固有のMACアドレスが割り当てられています。住所に例えるなら、基本的には機器ごとに最初から割り当てられている住所のようなものです。

MACアドレスは一般的に16進数で表記され、2桁ずつコロンやハイフンで区切られますが、中にはコロンやハイフンがないタイプも存在します。例えば次のような形です。

00:19:43:AB:CD:EF
00-19-43-AB-CD-EF

現場でスイッチのログや機器ラベル、ネットワーク管理画面を見たときに、こうした表記に出会います。

MACアドレスの先頭3バイト(上記の例なら 00:19:43 の部分)はOUIと呼ばれ、機器のメーカーを推定する手がかりになります。IEEEが公開しているOUIデータベースで調べると、その範囲がどのメーカーに割り当てられているかが分かります。実は、上記の例で挙げた 00:19:43 は、産業用ネットワーク機器で広く知られるBelden社に割り当てられているOUIの一つです。つまり、もし現場のスイッチログに「00:19:43」で始まるMACアドレスが見えたら、それはBelden製の機器である可能性が高い、ということが推定できます。
ただし、OEM供給や搭載されているネットワークチップによっては、実際の製品ブランドと一致しない場合もあるため、あくまで調査の手がかりとして使う情報です。

Hirschmannスイッチ

コロンやハイフンがないタイプ。646038の登録は、Hirschmann Automation and Control GmbH。

MACアドレスは、OSI参照モデルでいう第2層(データリンク層)で使われます。同じネットワーク内――例えば同じ島の中で、機器同士が直接やり取りするときの宛先として使われます。L2スイッチはこのMACアドレスを見て、どの機器にデータを届ければよいかを判断しています。

階層名 主な役割 工場での具体例
第7層(L7)
アプリケーション層
利用者のアプリケーションが通信サービスを利用する HMI/SCADAソフト、OPC UAクライアント、Webブラウザ、MES、メールソフト等
第6層(L6)
プレゼンテーション層
データの形式変換、暗号化、圧縮などを行う データの暗号化機能、文字コード変換、圧縮・伸長機能など
第5層(L5)
セッション層
通信の開始・維持・終了を管理する HMI/SCADAのセッション管理、リモート接続など
第4層(L4)
トランスポート層
信頼性のある通信(TCP)、コネクションレス通信(UDP) TCP、UDP
第3層(L3)
ネットワーク層
異なるネットワーク間の通信経路を決定(IP) ルータ、L3スイッチ、IPアドレス
第2層(L2)
データリンク層
同一ネットワーク内でのフレーム転送(MACアドレス) L2スイッチ、ブリッジ、VLAN、MACアドレス
第1層(L1)
物理層
電気通信・光信号の送受信、ケーブル・コネクタの仕様 LANケーブル、光ファイバ、コネクタ、リピータ、ハブ

通常、現場の業務でMACアドレスを意識する場面は多くありません。しかし、機器を入れ替えたとき、ネットワーク機器のログを確認するとき、不審な通信元を特定するときには、MACアドレスが重要な手がかりになります。

2. IPアドレスとは?ネットワーク上の論理的な住所

もう一つの住所がIPアドレスです。こちらは、ネットワーク管理者が機器に割り当てる論理的な住所です。MACアドレスが「機器に最初から付いている住所」だとすれば、IPアドレスは「現在の居所を示す住所」と考えると分かりやすいでしょう。

現在広く使われているIPアドレスは、IPv4と呼ばれる規格で、次のような形式で表記されます。

192.168.1.10
10.0.0.5
172.16.20.100

0から255までの数字を4組、ドットで区切る形式です。現場のネットワーク図、PLCの設定画面、スイッチの管理画面など、ほぼすべての場面でこの表記を目にすることになります。
なお、近年はIPv6という新しい規格も普及しつつありますが、OT環境のPLCやHMI、産業用スイッチ、ベンダー保守ツールは現在もほぼIPv4で運用されているのが実態です。本記事でも、特に断りがない限りIPv4を前提に話を進めます。

IPアドレスはOSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)で使われ、異なるネットワーク間――例えば事務所LANと制御LANの間など――で通信するときの宛先になります。ルータやL3スイッチはこのIPアドレスを見て、どのネットワークに転送すればよいかを判断します。

IPアドレスとセットで覚えておきたいのが、サブネットマスクという概念です。これは「同じネットワークの範囲」を決めるものです。
例えば、192.168.1.10と192.168.1.20が同じ範囲(同じサブネット)にあれば、直接通信できます。しかし、192.168.1.10と192.168.2.20のように範囲が違う場合、ルータやL3スイッチを経由しないと通信できません。サブネットマスクの設定を間違えると、見た目は近い番号でも通信が成立しなくなります。
なお、機器の設定画面やネットワーク図では、サブネットマスクを「192.168.1.10/24」のような表記で見ることもあります。この「/24」は「255.255.255.0」と同じ意味です。両者は表記方法が違うだけで内容は同じなので、現場の資料に出てきたときに「これはサブネットマスクの別表記だ」と分かれば十分です。

192.168.1.10/24 = 255.255.255.0

もう少し具体的に見てみましょう。
例えば 192.168.1.10/24 の場合、ネットワークの範囲は 192.168.1.0/24 で、実際の機器に使えるアドレスは 192.168.1.1 から 192.168.1.254 までです。両端の 192.168.1.0 と 192.168.1.255 は通常の機器には割り当てません。192.168.1.0 はネットワーク自体を示す「ネットワークアドレス」、192.168.1.255 は同じネットワーク内全機器への一斉送信に使う「ブロードキャストアドレス」として予約されているためです。

範囲図

この考え方を押さえておくと、次の判断ができるようになります。

  • 192.168.1.10 と 192.168.1.20 → 同じネットワーク(直接通信可能)
  • 192.168.1.10 と 192.168.2.20 → 別ネットワーク(L3スイッチやルータが必要)
ネットワーク通信

なお、MACアドレスとIPアドレスは「ARP(アープ)」という仕組みで紐付けられています。今回は詳細について深く触れませんが、「IPアドレスからMACアドレスを調べるための仕組み」とだけ覚えておけば十分です。

3. IPアドレスとセットで設定する項目
ゲートウェイ、DNS、DHCP

PLCやHMI、産業用スイッチの設定画面を開くと、IPアドレスとサブネットマスクの他に、必ずと言っていいほど登場する項目がいくつかあります。設定する立場では避けて通れない要素なので、それぞれの役割を押さえておきましょう。

デフォルトゲートウェイ(デフォルトルート)

自分のネットワーク外へ通信するときの「出口」となる機器のIPアドレスです。
多くの場合、ルータやL3スイッチのIPアドレスを指定します。設定を間違えると、同じネットワーク内の機器とは通信できるのに、外のネットワーク(別棟、上位システム、ベンダー保守回線など)には繋がらない、という症状になります。「同じ島は見えるけど、別の島と話せない」というトラブルの原因の多くは、デフォルトゲートウェイの設定ミスです。

DNS

DNS(Domain Name System)は、「www.example.com」のようなホスト名をIPアドレスに変換する仕組みです。ITの世界では当たり前に使われていますが、OT環境ではPLCやHMI同士の通信が固定IP直指定で行われているため、DNSの優先度は相対的に低めです。

ただし、上位システムやクラウド連携、Windows Update、ライセンス認証、ベンダーサポートサイトへのアクセスといった場面では必要になります。「IPアドレスでは繋がるのに、URLでは開けない」という症状が出たら、まずDNSの設定を疑うのが定番です。

DHCP

DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、IPアドレスを自動配布する仕組みです。事務所のPCやスマートフォンなどは、起動時にDHCPサーバから自動的にIPアドレスを取得しています。

OT環境では、前述のとおり固定IP運用が基本のため、DHCPは積極的には使われません。ただし、知っておくべき注意点があります。何らかの拍子に「DHCPサーバが工場内に紛れ込んで、勝手にIPアドレスを配り始める」という事故が実際に発生することです。
例えば、家庭用のWi-Fiルータを誰かが軽い気持ちで工場LANに接続すると、そのルータがDHCPサーバとして動作し、PLCや産業用機器に勝手なIPアドレスを配ってしまうことがあります。結果として、固定IP前提で動いていた設備が通信不能になることがあります。
OT環境では「持ち込み機器の接続ルール」が非常に重要なのは、こうした事故を防ぐためでもあります。

IPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSは、ネットワーク設定の基本項目として覚えておくとよいでしょう。DHCPは、これらを自動配布する仕組みとして理解しておくと整理しやすくなります。

4. OT環境では固定IPが基本となる理由

ITの世界では、PCに割り当てられるIPアドレスはDHCPで自動配布されることが多く、起動するたびにアドレスが変わることもあります。しかしOT環境では、ほとんどの機器が固定IPで運用されています。これにはいくつかの明確な理由があります。

まず、PLCやHMI、SCADAサーバは、お互いを「IPアドレスで指定して」通信しているケースが多いためです。例えば、HMIの設定ファイルに「PLCのIPアドレスは192.168.10.5」と書かれているとします。もしPLCのIPアドレスが何かの拍子に変わってしまえば、HMIは通信先を見失います。当然、画面表示も操作もできなくなります。

次に、ベンダーの保守ツールが固定IP前提で作られていることも多くあります。「保守時にこのアドレスでアクセスする」という運用が確立されているため、勝手にアドレスを変えると保守作業そのものができなくなります。

さらに、トレースやログ管理の観点でも、IPアドレスが変わると追跡が難しくなります。「あのPLCで2時間前に通信が途切れた」という記録があっても、IPアドレスが日々変わっていれば、どの機器の話か分からなくなってしまいます。

こうした理由から、OT環境では設備の安定稼働を最優先するために、IPアドレスを固定で運用することが基本になっています。

5. 現場で起きるアドレス起因の事故事例

ここからは、現場で実際に起きるアドレス起因のトラブルを見ていきます。

 

《 ケース1 》 IPアドレスの重複による設備停止
新しいPLCを既存のラインに追加するとき、設定担当者が古い資料を見て、
すでに使われているIPアドレスを設定してしまった

これだけで、既存のPLCと新しいPLCの両方が通信不安定になり、ライン停止につながることがあります。

「アドレスは1台ごとに違うはずだから大丈夫」と思っていても、台帳が更新されていなければ、誰も最新の使用状況を把握できていません。中小工場では、IPアドレスの管理を「現場の頭の中」で済ませているケースが珍しくなく、人事異動や担当者交代をきっかけに、こうした事故が起きやすくなります。

 

《 ケース2 》 PLC交換時の設定ミス
故障したPLCを交換する際、新しいPLCに「前のPLCと同じIPアドレス」を設定するつもりが、サブネットマスクや初期設定の値を見落として、別の設定で立ち上げてしまった

こうしたミスも頻発します。

物理的に交換しただけのつもりでも、設定が一つ違うだけで、HMIから見えない、SCADAに認識されない、他のPLCと通信できないといった問題が一気に発生します。再起動して動かない理由を一つひとつ確認していくうちに、ライン停止時間がずるずると延びていく――これは保全担当者にとって悪夢のような展開です。

 

《 ケース3 》サブネットマスク誤設定による通信障害
同じネットワークのつもりだったのに通信できない

このような症状は、サブネットマスクの誤設定が原因のことがよくあります。

例えば、ある機器のサブネットマスクが255.255.255.0、別の機器が255.255.0.0に設定されていたとします。番号自体は近くても、それぞれが「同じネットワーク」と認識する範囲が違うため、片方からは相手が同じネットワークに見えても、もう片方からは外のネットワークに見えることがあります。その結果、特定の相手だけ通信できない、応答が返らない、想定外のゲートウェイへ通信しようとする、といった分かりにくい障害になります。原因の特定にも時間がかかり、現場担当者を消耗させるトラブルの代表例です。

***

これらの事故事例に共通しているのは、いずれも

  • 台帳がない
  • 台帳はあるが古い
  • 台帳はあるが現場と一致していない

という、地味な管理の問題です。アドレス管理は地味ですが、実はOTセキュリティの出発点でもあります。この経営的な視点については、第10回「資産が見えなければ守れない 構成管理と可視化」で改めて詳しく扱います。

6. まとめ

いかがでしたでしょうか?
最後に今回の内容をまとめてみます。

  • MACアドレスはネットワーク機器ごとに割り当てられた固有の識別子であり、同一ネットワーク内での通信に利用される
  • IPアドレスはネットワーク上で機器の所在を示す論理的な住所であり、異なるネットワーク間の通信に利用される
  • OT環境ではPLCやHMIなどがIPアドレスを指定して通信するため、固定IPでの運用が基本となる
  • IPアドレスの重複や設定ミスによるトラブルを防ぐためには、正確なアドレス管理と台帳整備が重要である

MACアドレスとIPアドレスの役割を正しく理解することで、機器交換時の設定ミスや通信トラブルの原因を特定するのに役立ちますので、覚えておくとよいでしょう。

次回は、こうしたアドレスを使って実際に通信を成立させている機器――L2スイッチとL3スイッチについて、その役割の違いと、中小工場で見落とされがちな「マネージドスイッチとアンマネージドスイッチの違い」を解説していきます。

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